第72回 京都大学丸の内セミナー

平成28年7月1日(金)18:00より




 
RNAの長さに隠された謎
-私のRNA研究遍歴とセントラルドグマ 

 大野 睦人(京都大学ウイルス研究所 教授







DNAはよく知られている。有名なワトソンとクリックの2重螺旋、遺伝子の実体、ゲノム、染色体などなど。ではDNAとよく似ているRNAという物質をご存じだろうか。フランシス・クリックが分子生物学の黎明期に提唱した古典的セントラルドグマ(中心教義;図1a)によれば、DNAは自らを複製し(DNA makes DNA)、RNAに情報を受け渡すことによりタンパク質(Protein)を合成する(DNA makes RNA makes Protein)。このシナリオ中のRNAは、ゲノムDNAの情報をタンパク質合成の設計図として利用するために一時的にコピーされたメモのようなものに過ぎなかった。


しかし近年、RNAに対する我々の認識は大きく変貌した。RNAもタンパク質と同じように積極的な機能を持っていること、mRNA前駆体からイントロン配列を除去するスプライシングやmRNAの情報を元にタンパク質を合成する翻訳など、遺伝子発現の基本的かつ重要な機構にRNAが必須な機能分子として関わっていることが分かってきた。さらに今世紀に入ってから、ヒトゲノムプロジェクトなどの成果により、タンパク質の情報を含むDNA領域はヒトゲノム全体の2%に過ぎず、逆にヒトゲノム全体の90%以上の領域から、タンパク質をコードしないRNA(非コードRNA)が合成されていることが報告され、古典的セントラルドグマは修正を余儀なくされた(図1bDNA makes RNA often makes no Protein)。これら膨大な非コードRNAの大部分は未だ機能不明で、天文学のdark matterになぞらえてゲノムの暗黒物質と呼ばれている。





このような状況を受けて本講演では、分子生物学の輝かしい発展と共に幾度となく修正を迫られてきたセントラルドグマと私のささやかな研究遍歴とをオーバーラップさせながら、遺伝子発現におけるRNAの重要性を紹介して行く。その中で、RNAの長さという、セントラルドグマには存在しない概念の重要性が強調されることになった私たちの最近の研究成果を紹介する。細胞がhnRNP Cという因子を用いて合成直後のRNAの長さを測り、ある特定の長さより長いもの(mRNA)と短いもの(U snRNA)とに仕分けしているのである(図2)。








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