第135回 京都大学丸の内セミナー
(現地/オンライン)

雲外蒼天 “フュージョンエネルギー”は
雲を突き抜けるか

令和日(金)18:00 ~19:30

 稲垣 滋(エネルギー理工学研究所・教授)

 核融合反応によるフュージョンエネルギーは、燃料が海水から豊富に得られ、反応時に二酸化炭素を排出しないため夢のエネルギーとして実用化が期待されています。核融合反応を起こすには原子核同士を衝突させる必要がありますが原子核が電子を纏った原子や分子の状態では電子が原子核同士の衝突の邪魔になってしまいます。そこで原子から電子を剥ぎ取りプラズマという状態にします。しかし原子核はプラスの電荷を持つため今度はクーロン力で衝突が妨げられてしまいます。クーロン力に打ち勝つためプラズマを1億度に加熱し、かつ飛び散らないように長時間閉じ込めておく必要があります。この1億度とプラズマの閉じ込めの達成にはこれまで多くの困難がありました。ただし、最近は多くのプラズマ閉じ込め装置で1億度の達成やプラズマ閉じ込めの改善が報告されています。暗雲をかき分けてきたフュージョンエネルギー研究はようやく晴天を垣間見るようになりました。

 太陽はプラズマであり、巨大な重力でプラズマを閉じ込め核融合反応を持続しています。一方我々は地上のプラズマを磁力で閉じ込めています。地上で核融合を起こすには1億度が必要ですがプラズマは最終的には1000℃程度の固体と接することになります。このためプラズマ中には1mで数千万度という巨大な温度差が生じプラズマは大きく流動しようとしますが、その流動は磁場によって抑えられています。しかし、プラズマ中に微小な渦や波動が生まれ、それらが乱流へと成長するとこの乱流がプラズマを逃してしまいます。温度差による乱流の発生は普遍的なため、乱流はフュージョンエネルギー研究の前にはだかる巨大な暗雲でした。

 このような状況の中、本講演では、この乱流が如何に強敵だったか、どのように乱流を研究し、克服してきたのかを説明します。乱流の抑制には多くのセレンディピティがありました。そしてプラズマ乱流の研究は現在も世界中で進行中です。また、京都大学ではヘリオトロンという装置が発明され、プラズマを磁場で閉じ込める実験が長年行われてきました。現在我々は乱流のあるプラズマを閉じ込めるための最適磁場構造を探求しています。この最新の研究成果も紹介します。