第136回 京都大学丸の内セミナー
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第136回 京都大学丸の内セミナー

ほとけ あかがね
仏と銅 ― アフガニスタンにおける経済開発と文化遺産

ほとけ あかがね
仏と銅 — アフガニスタンにおける経済開発と文化遺産 

令和10日(金)18:00 ~19:30

 稲葉 穣人文科学研究所・教授)

 現在のアフガニスタンの首都カーブルから南東に40kmほど離れた山中に、世界遺産級の巨大な都市遺跡があります。メス・アイナクと呼ばれるこの遺跡は西曆2、3世紀ころから9世紀くらいまで存続していたと考えられているのですが、大規模な仏教寺院群を中核とする八つもの宗教施設遺跡もそこには含まれており、見事な仏像や壁画も発見されています。南アジアと中央アジアの文化交流の一つの証ともいえるこの遺跡の足下には、しかしながら世界でも二番目か三番目の埋蔵量を持つとされる巨大な銅鉱床が存在しているのです。2007年11月、この鉱山の30年間の採掘権がアフガニスタン政府から中国企業に売却されたことから、この地に世界の考古学者の注目が集まりました。中国企業が予告した採掘開始時期は2013年。採掘は露天掘りで行われると予告されました。そこで遺跡群を救うべく、急遽、緊急発掘が開始されたのですが、同時に、世界的な文化遺産の保全を訴えて銅鉱床の採掘方法を坑内堀りに変更するように求める運動も起きました。

 1979年の旧ソ連軍の侵攻以来、40年以上の長きにわたって形を変えつつ続くアフガニスタンの戦乱は、国土を荒廃させ、さらに干魃や大地震などの自然災害がそれに拍車をかけました。2001年に第一次ターリバーン政権が崩壊した後、国際社会の後押しを受けて成立した新政府は、戦乱によって生産手段を失い、貧困に苦しむ国民の生活を向上させるべく、新たな経済開発の方途を模索したのですが、アフガニスタンの山岳に眠る総額数兆円の価値を持つとされる鉱物資源は、そのための極めて貴重な外貨獲得手段として期待されています。しかし一方でメス・アイナクの都市遺跡群は人類の貴重な文化遺産として保全されるべきでもあります。そもそも周囲から孤立した山岳の中に鉱山採掘のための居留地が出来ると言うのは理解できるとしても、想定される人口に不釣り合いなほどの規模の仏教寺院群がなぜここに存在しているのか。いわゆる前近代都市社会の成立と発展というプロセスや、宗教遺跡と都市の関係と言った、社会史的文化史的問いを考えるための非常に重要な手掛かりが、そこにはあるはずです。規模の大小はあれ、開発と文化遺産保護とはしばしば対立するイシューであり、その適切な解決はアフガニスタンだけでなく世界中で模索されている課題でもあります。

 本セミナーでは遺跡群を取り巻く政治的経済的状況だけでなく、文化遺産としてのメス・アイナクの意義と未来について紹介できればと考えています。

図1 メス・アイナク近傍

図2 メス・アイナク遺跡と銅鉱床

図3 メス・アイナク出土菩薩半跏思惟像

図4 立仏像下半身

図5 仏塔基壇部

図6  仏頭塑像

図7 メス・アイナク出土貨幣

図8 彩色貴人像頭部

(図1, 3-8 © Anna Filligenzi; 図2 © Map Design Unit, World Bank 2013)