第111回 京都大学丸の内セミナー

「脂質免疫」
〜微生物やがんに対抗する新しい免疫システム〜

令和元年10日(金)18:00 より

杉田昌彦(ウイルス・再生医科学研究所 教授)

 演者が大学院生だった1980年代後半は、タンパク質に特異的な免疫応答の分子機構の解明が飛躍的に進んだ時期でした。タンパク質断片であるペプチドがMHC分子と結合した複合体の結晶構造やそれを認識するT細胞受容体の構造がセンセーショナルに発表され、免疫の最大の特長である抗原特異性の分子基盤がすべて解明された感がありました。演者は、それらの研究を目の当たりにして、免疫の神秘が解き明かされてゆく感動を覚えるとともに、臨床内科医として素朴な疑問を感じていました。「免疫系が特異的に認識する抗原は、タンパク質だけなのだろうか?」と。肺炎球菌に感染すると、菌が産生する多糖に対する免疫応答が惹起されます。 また、カンピロバクターと呼ばれる細菌に感染すると、糖脂質に対する免疫応答が起こります。 さらに、全身性エリテマトーデスという自己免疫病では、核酸に対する自己抗体が産生されます。つまり、私たちの免疫系は、タンパク質だけでなく、多糖や脂質、核酸に対しても特異的に応答する機構を有していると考えられますが、その詳細なメカニズムは不明でした。 このような背景から、私たちの研究室では、微生物やがん細胞が産生する脂質に対して特異的に応答する免疫システムの解明と、それを利用した脂質ワクチンの開発を進めています。