50回品川セミナー

50回品川セミナー

エイズウイルスの過去と現在

平成2674日(金) 17:30より

小柳 義夫(ウイルス研究所長・教授)

HIVの起源はアフリカのサルのウイルス

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、大きく2種類に分類される。全世界に爆発的に広がり恐れられたエイズ(後天性免疫不全症候群:acquired immunodeficiency syndrome) の原因となったHIV-1 と西アフリカに多い病原性の弱いHIV-2 である。HIV-1 の起源は中央アフリカのチンパンジーのウイルス、HIV-2 の起源は西アフリカのスティーマンガベイというオナガザルのウイルスであると考えられている。ところでアフリカに生息する多くのサルには、免疫不全ウイルスが数万年前から感染しており、HIV-1がチンパンジーからヒト世界へ侵入したのは100 年ほど前で、チンパンジー集団への侵入は、他の複数のサルの免疫不全ウイルスが、500 年ほど前に混合感染した結果だと考えられています。すなわち、「エイズウイルスの起源はアフリカのサルのレトロウイルス群の中にある」ということになります。アフリカにはブッシュミートといって、森林の中でサルを捕って食肉にする人たちがいた。その人たちが捕ったサルを捌く時にサルの血を浴びて、サルからヒトへ感染したのではないかといわれています。それがアフリカで100 年くらい前に起きた。

HIVの出アフリカ記

 アフリカと中米は奴隷貿易の時代から往来が頻繁に行われていたし、植民地支配をしていたヨーロッパ諸国も同様で、HIV-1やHIV-2 は人の流れに乗ってこっそり拡散していたと考えられています。1981 年、HIV-1によりエイズになった患者がアメリカのホモセクシュアルの人たちに次々と見つかってセンセーションを巻き起こしました。しかしそれ以前に、現コンゴ民主共和国などの中央アフリカや、そこから中米ハイチに移動した感染者がいたことがすでにわかっています。

HIVの感染とエイズの発症

 HIV-1 ならびにHIV-2はエイズの原因ウイルスですが、感染後すぐに免疫不全症を発症するわけではありません。 HIV-1の場合、通常7〜8 年にわたる無症候期を経て、CD4 細胞数がμℓ 当たり200 個以下(正常値500 〜1200 個)に低下するころに、免疫不全による日和見感染症や悪性腫瘍などの合併症が併発し、脳症や消化器疾患なども発症します。感染初期には多くが無症状ですが、血液や体液中に多くのウイルスがあるので、ウイルスを伝播させるドナーになる可能性が高いことがわかっています。生体内ではHIV 抗体が誘導される前に高ウイルス血症が起き、血中のCD4 細胞は減少します。やがて、HIV 感染細胞を破壊するキラーT細胞などが誘導され、さらに抗体ができると、ウイルス血症のレベルは低下します。しかし活発なウイルス複製が実は毎日起きてエイズへ向かっているのです。 HIV の複製を阻害するには逆転写酵素、インテグレース、ウイルスタンパク質を作るのに必要な酵素プロテアーゼなどの働きを阻害する薬剤の併用療法があります。この併用療法で死亡に至る患者さんは格段に少なくなりました。早期発見が重要です。