第13回品川セミナー

「禁じられた戦時報道写真
―朝日新聞富士倉庫資料の不許可写真」

平成2363日(金) 17:30より

貴志俊彦(地域研究統合情報センター・教授)

2001年にニューヨークで起こった9・11事件を機として、日本でも、戦争とメディアについての議論が沸騰した。政治や教育とともに、メディアが発する情報は、私たちの国際認識やアイデンティティに深く影響を及ぼすからにほかならない。

この講演会では、とくに朝日新聞の「戦争責任」論をめぐっての議論から取り上げたい。朝日新聞社は、2009年の創立130年を記念する事業を進めるにあたって、ようやく自社の客観的な歴史を明らかにするさまざまな試みに取り組んでいる。だが、朝日新聞社が主張する「戦争責任」論、そしてそれに対する批判について検証するためには、戦前の報道と、それを取り巻くメディア法の実態について解明する必要がある。

そこで、まず朝日新聞の論調が転換した満洲事変以降における新聞メディアをめぐる検閲問題を概観する。

次に、この問題を検証材料とする朝日新聞富士倉庫写真をとりあげる。この写真コレクションは、朝日新聞大阪本社に保管されている戦前の7万点あまりの紙焼き写真のことをいう。撮影時期は、1931年の満洲事変前後から敗戦の1年前の1944年まで、アジア各地に派遣された朝日新聞特派員が撮った写真と、通信社から配信された写真からなる 。戦時メディアを考えるにあたって、とくに顕著な解釈が可能となるこうした「不許可」写真を事例として取り上げ、戦争と報道メディアの問題について考察したい。