99回京都大学丸の内セミナー

自己と非自己を見分ける免疫の仕組みと加齢変化
-T細胞とその産生臓器 胸腺を中心に―

平成3010日(金) 1800より

濵﨑 洋子 (iPS細胞研究所 教授)

「免疫」とは、文字通り「疫」(疫病)から「免」れるための生体システムです。免疫システムがうまく形成されないと、普段身の回りにいる微生物に私たちの身体はたちまちやられてしまいます。また最近では、免疫システムが「がん」に対しても攻撃をしかけ有効に排除する力を持つことが明らかになってきました。

その一方、免疫は私たちにとって都合の良いことばかりをしてくれるわけではなく、暴走して様々な疾患につながることが知られています。例えば、本来は攻撃すべきでない自己の成分や無害な花粉を免疫が間違えて攻撃すると、自己免疫病やアレルギーなどを引き起こします。また、動脈硬化などの成人病にも、免疫システムの不適切な活性化が関わることが分かってきました。さらに、臓器移植の際の拒絶反応にも関わっていることから、免疫の仕組みをよく理解することは、iPS細胞を用いた再生医療の安全・かつ有効な実現のためにも極めて重要です。

私たちは、免疫応答の司令塔と呼ばれるT細胞とその産生臓器である胸腺という組織の機能を中心に研究を行っています。T細胞に自己と非自己の識別能を賦与する過程はとても厳密で、胸腺内でうまれた細胞のうち、ほんの5%程の細胞だけが合格品として機能的なT細胞になることができます。興味深いことに、胸腺は青年期以降急速に小さくなることから(胸腺退縮)、もっとも老化の早い臓器であるといわれています。かくも重要な臓器が、なぜ早々に機能低下してしまうのでしょうか?この講演では、免疫システムがどのように自己と非自己を見分けているのか、また加齢によってどのように変化し、それが加齢関連疾患や個体の老化とどのように関連しうるのか、私達の研究を紹介しながら、お話しします。

胸腺で分化途中のT細胞