第15回品川セミナー

レーダーを使って大気を測る
--- 信楽とインドネシアからの研究紹介 ---

平成2385日(金)17:30より

山本衛(生存圏研究所、教授)

強い電波を標的にあて、反射してくるエコー(こだま)を捉える、これがレーダーの原理です。飛行機や船の位置や速度を知るための装置として幅広く利用されているレーダーですが、地球大気のリモートセンシングにも活用されています。今回のセミナーでは、一般的にはあまり有名でない、レーダーを使った大気の観測や研究を紹介したいと思います。

地球の大気はどのくらいの高さがあるのでしょうか。図1に大気中の諸現象を概念的に示してみました。大気は重力で地表に押しつけられた気体であり、地表からの高度が上がるにつれて、圧力と密度が指数関数的に減少して行きます。雲ができ雨が降る「対流圏」は高度十数kmの厚みしかありませんが、その上には「成層圏」「中間圏」「電離圏」と呼ばれる高度領域が広がっており、希薄になりながら宇宙空間に繋がっていきます。太陽放射(太陽光)をエネルギー源とする大気の運動は、対流や波としてエネルギーを上方へ伝えていきます。また太陽から地球に吹き付ける太陽風は、地球大気の上辺に直接大きな影響を与えます。我々は、地球大気中に見られる様々な変動を捉え、それらを通じた大気各層の上下結合について研究しています。その有力な研究手段として、レーダーを用いてきました。

京都大学生存圏研究所は、滋賀県甲賀市信楽町にMUレーダーと呼ばれる大型の大気レーダーを有し、全国と国際的な研究者と共同利用を進めています。1984年に完成したこのレーダーの全景を図2に示します。直径103mの巨大なアンテナから強力な電波パルスを上空に発射し、大気からの非常に弱いエコーを受信して風速や大気の乱れの強さなどを観測します。観測できる高度範囲は、地表付近から高度数百kmまで広がっています。MUレーダーの成功のあと、我々は2001年にインドネシア共和国のスマトラ島の赤道直下に赤道大気レーダーと呼ばれる新しい大型レーダーを建設しました。図3に示すように、アンテナ直径が110mとMUレーダーより大きいのですが、送信出力が10分の1と小さいため感度は少し限られます。しかしながら赤道直下に位置するという特徴を活かして、これまで大きな成果を挙げてきています。

以上、簡単に紹介しましたとおり、今回のセミナーでは、信楽とインドネシアの大型レーダーを中心として、レーダーの基礎的なお話と、地球大気の広い高度範囲を対象とする研究について述べさせていただきます。皆様ぜひお越しください。