ヒトの寿命は長い、そして成長期間も長い。ヒトの成長パターンは霊長類にも共通し、樹上生活、多くの個体が社会を構成して生活すること、そしてとりわけ脳・知能の発達に関連するだろう。身体成長には、サイズの増大、機能やプロポーションの発達、オトナ(成体)状態への変化の3側面がある。そして受精卵からオトナまで、知能を含めて様々な器官と生活機能が異なるペースで発達する。
人類の進化の過程で、生活史に他の動物に見られない、あるいは顕著な思春期*1(青年期)が加わった。思春期において身体成長が加速され(サイズ増大のスパート)、生殖機能が急速に発達して可能になり(性成熟)、そして成長が終り、生殖活動を営む成体期に達する。女性では月経周期がはじまり(初潮)、男性でも精巣が急激に発達し、精子を作る。そして二次性徴(乳房・陰毛・腋毛・変声・喉ぼとけ)が発達し、女性らしさ(多くは体脂肪の蓄積による)や男性らしさ(頑健さ、筋骨格系)の発達がある。このような成長パターンが形成された理由は何なのだろうか? つぎの三つの仮説が考えられる。
1)コドモ期のゆっくりとした成長の遅れをとりもどすための「スパート」で、それに性成熟が加わった。
2)食物獲得を独自に行うことができるようになる、体力や地上の点で得難い食物を獲得・処理する方法を学習し)。
3)オトナの直前段階を社会に示す。
サイズ成長のスパートは、ヒト以外の霊長類では体重成長には認められても、身長などの「長さサイズ」(あるいは骨格サイズ)での顕著なスパートは無い。このため思春期はヒト特有のもので、人類の進化において生活史に挿入されたのだと解釈する研究者もいる。しかし、これは霊長類の成長全般に関する視点に基づいてはいない。
サルの「思春期」について、ニホンザル(マカク)とチンパンジーの性成熟ころの身体成長のありようをみてみたい。彼らにも2次性徴の発現を伴う「思春期成長スパート」があるのだろうか?それぞれオナガザル上科、ヒト上科と大きく異なる分類群にある*2。いずれも「複雄・複雌」の「乱婚制」社会を持つ。しかし社会の構造がニホンザルは「オス分散・メス居留」であり、一方、チンパンジーは「オス居留・メス分散」である。思春期になると、いずれかの性の個体が分散する、すなわち出生群から離脱し、他の群れへ加入する。これは近交を防ぐためのメカニズムでもあるけれども、社会構成員の入れ替えという意味もある。そして加入しようとする者は、社会への加入がうまくいくかどうかという重大な課題を持つ。これは人類においても同様である。思春期における身体成長は、こういった社会化過程*3と関連していることを示すことができるだろうか?