第73回京都大学丸の内セミナー

ホウ素中性子捕捉療法による難治性ガンに対する取り組み

平成2885日(金) 1800より

鈴木 実(原子炉実験所 教授)

当日の講演映像 

ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)は、放射線治療の1つである。近年、放射線治療は、高精度放射線治療と称される照射技術のめざましい進歩、我が国が世界をリードする粒子線治療である陽子線治療、重粒子線治療の施設数の増加により、ガン治療の3本柱の1つとして、より大きな役割を果たすようになっている。 

京都大学原子炉実験所で取り組んでいるBNCTが、上記の他の放射線治療と大きく異なる特徴は、「ガン細胞選択的重粒子線治療」という言葉で表現される。後半の「重粒子線治療」は、BNCTが、炭素イオン線を使用する重粒子線治療施設から、成果が報告されているように、通常のX線を使用する放射線治療に抵抗性のガンに対しても良好な治療効果が期待される特長を有していることを示している。前半の「ガン細胞選択的」は、BNCTの非常にユニークな特長を示している。BNCTは、本講演で解説する治療原理により、ガン細胞に対して、すぐ横に並んでいる正常細胞より、大きな放射線量を照射することが可能である。この特長を利用することにより、BNCTは、通常は2回目の放射線治療が不可能な、放射線治療後の部位に再発したガンや、周囲の正常組織に染みこむように拡がるガン、放射線に弱い臓器である肝臓や肺に拡がる多発性のガンに対して適応が可能である。 

BNCTは体の奥深くにあるガンに対しては、適応することが難しいなどの欠点もあるが、他の放射線治療との組み合わせなどにより、難治性ガンに苦しむ患者さんに、新しい治療法を提示できる可能性がある。また、現在、加速器から発生させた中性子を使用するBNCTの治験も開始されている。本講演では、BNCTの原理、これまでの臨床成績、今後の展望について紹介したい。 

ホウ素中性子捕捉療法のための加速器中性子源の現状

田中浩基(原子炉実験所 准教授)

1980年代から世界中の研究機関においてホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)のための加速器中性子源の研究開発が行われてきたが、加速器の電流不足、中性子発生ターゲットの健全性などの課題があり実現に至っていなかった。京都大学原子炉実験所と住友重機械工業株式会社は上記課題を克服する手法としてサイクロトロンで生成される、エネルギー30MeV・電流値1mAの陽子ビームとベリリウムターゲットの組み合わせによる熱外中性子源(Cyclotron-Based Epithermal Neutron Source: C-BENS)を提案した。2008年12月に実機をインストールし、物理照射実験及び生物照射実験を経て2012年10月に再発悪性神経膠腫に対して、世界初の加速器中性子源によるBNCTの治験を開始した。本セミナーではBNCTのための加速器中性子源の現状及び本実験所で開発された加速器中性子源の紹介を行いたい。