第140回 京都大学丸の内セミナー
(現地/オンライン)

水中の生物を音で調べる 熱帯のジュゴンと南極の魚

令和6月7日(金)18:00 ~19:30

 市川光太郎(フィールド科学教育研究センター・准教授)

生物の生態や行動を理解する上で欠かせないのが「いつ、どこで、なにを」しているか、という問いです。この問いにこたえるため、特に視覚のきかない水中において“音”が利用されてきました。生物自身が発する鳴き声や、生物に装着した超音波発信機の音を解析するのです。


熱帯に生息する絶滅危惧種ジュゴンは海底に生える海草を食べて体長3m、体重300㎏に成長します。ややブサイクな顔に似合わず、小鳥のような声でジュゴンはピヨピヨピーヨと鳴きます。ピヨという鳴き声をチャープ、ピーヨをトリルといいます。世界各地におけるジュゴンの音声研究の結果、チャープによって個体間の位置関係を把握し、トリルによって意思を伝えたりしていることがわかりました。


ジュゴンで培った音声解析技術を、小型魚類に装着した超音波発信機の信号解析に応用し、南極における小型魚類の行動追跡を実施しました。海氷に穴をあけ、魚を釣り、発信機を装着し、その行動を追跡したのです。ショウワギスとヒレトゲギスという体長25㎝くらいの魚たちが、冷たく暗い海の底を広く(約3600㎡)泳ぎまわっていました。また、アザラシや海氷が崩壊する音も記録され、思っていたよりも南極の海中が騒がしいことがわかりました。本講演ではこれらの研究成果を皆様に共有したいと思います。