33回品川セミナー

放射線の攻撃からゲノムを守る
ー我々のゲノムを守る蛋白質の巧妙かつダイナミックな防衛戦略ー

平成2521日(金) 17:30より

井倉毅(放射線生物研究センター、准教授)

ゲノムのDNAに書き込まれたプログラムは、我々の身体を構成するあらゆる細胞一つ一つに存在し、細胞内で繰り広げられる様々な生命活動の中枢です。この基本プログラムは、地球上の環境条件 高濃度の酸素、宇宙や大地からの放射線、太陽からの紫外線、ゲノムに入り込むウイルスなど)により、破壊されることがあります。原爆、原発、医療現場の人工の放射線も同じです。また、体内の代謝物の中にもDNAと反応して損傷させるものが含まれてい ます。この両面からの攻撃「ゲノムストレス」から自らを守るため、生命は様々な戦略を発達させてきました。だからこそ、我々は、この危険に満ちた世界で生き延びることができるのです。京都 大学の放射線生物研究センターは、この「適応戦略」を基本的な生命の原理として、また医学的に重要な疾患の防御メカニズムとしてときあかすことをめざしています。

放射線を浴びると、ゲノムが切断されます。この種のゲノムのストレスは、生体内の修復酵素によって速やかに修復されることで解消されています。ゲノムは多くの蛋白質によって常に監視されており、ひとたび傷が生じた時は、修復を行う様々な蛋白質が即座に傷 に集合し、連携を取る巧妙なシステムが、我々を構成している細胞の中に存在しているからです。本日は、巧妙かつダイナミックに変化しながら、我々のゲノムを守る蛋白質のお話をさせて頂きます。

内なる敵アルデヒドの攻撃からゲノムを守る
ー「体内浄化」と「傷の修理」の二つの戦略ー

高田穣(放射線生物研究センター、教授)

お酒を飲んだら、体内にアルデヒドができます。酒に弱い体質のひとはアルデヒドがなかなか分解できず、そのため顔が赤くなり悪酔いしやすいのです。ところが、酒を飲まなくてもアルデヒドは 体内で毎日できています。最近の研究で、アルデヒドが血液細胞を作るおおもとの細胞(幹細胞)のDNAを障害することがわかってきました。これもゲノムのストレスです。それを防ぐために生命 は、アルデヒド分解酵素で細胞内を浄化し、それでも傷ついたDNAは修理するという二つの戦略をとっています。なぜそういえるのか、研究の概略をわかりやすくお話したいと思います。